男はなぜ結婚するのか?
ヒトの男はほ乳類の例外
私は東京へは必要最小限しかでかけず、それも、朝夕のラッシュアワーはできるかぎり避けている。しかし、たまに、それがかなわないことがある。そんなとき、満員電車に乗ると思う。日本のお父さんたちは、本当に、本当に、偉い!
だが、同時に疑問もわく。なぜ、毎日毎日スシづめの電車に1時間も2時間も揺られ、朝早くから夜遅くまで働くのだろう? もちろん妻子を養わなければならないのだが、なぜ、わざわざ結婚し、妻子のためにがんばるのだろう?
なんてパカことをいう奴だと思ったかもしれない。しかし、「なぜ、ヒトの進化の過程で結婚という配偶形態が生まれたのか?」「なぜ、1人の女に何十年にもわたって資源(リソース)を提供し続ける男たちが生まれたのか?」という疑問は、考えるに値する。なぜなら、もし男の助けなしで子どもが育つなら、男にとってはその場かぎりのセックスのほうが進化的には得だからだ。たとえ子育てに助けが必要だとしても、何十年も資源を提供し続けるのが進化的に得策とは考えられない。女とは、助けが必要な期間だけいっしょにいて、さっさと次め相手を探したほうが多くの子孫を残せるだろうに、なぜ、そうしないのだろう?
実際、ヒトの男の妻子への献身度は、ほ乳類の中では例外的だ。大部分のほ乳類では、オスは子育てに参加しない。オスが子育て
に参加する種は、5%にも満たない。霊長類ではオスが子育てに参加するケースもけっこう見られるが、それでも、メスは基本的には自分で食物を手に入れなければならない。オスがエサを分けてくれるなんて甘い話はあまりない。これに対し、ヒトの男は実に献身的だ。妻子に安全な住みかを提供し、食物を運び、彼らを危険から守る。それも何十年間にもわたってだ。
なぜ、ヒトの男は、結婚し、妻子にこうも献身的につくすのだろう?
男が結婚する理由:献身の証しを示さないとセックスできない
男が結婚する理由の1つ。それは、そうしないとセックスすることが難しく、子を残しにくい、という説だ。
セックスは女にとっては一大事。少なくとも、いまのような避妊手段のなかったほんの少し前までは、そうだった。セックス=妊娠の可能性。セックスをする女は、9ヵ月近い妊娠、それに続く出産、そして授乳を含む最低数年にわたる子育てを覚悟しなければならなかった。
これだけの大仕事をしなければならない女たち。当然、セックスをする前に、男に献身の証しを求めたはずだ。そして、献身の姿勢を見せない男たちは、彼女たちの「望ましい男リスト」から削除されていっただろう。
男がどんなにさっさとセックスだけですませようとしても、女はそれを許さない。日本で「結婚するまで、セックスはだめよ」という台詞があまり聞かれなくなったのは、ほんのここ数十年のことだ。女はセックスをできるだけ先送りにして、あの手この手で男の献身度をテストする。相手が食べ物や隠れ場所などの資源を長期にわたり供給し、自分や子どもを守ってくれる男かどうか、時間をかけてじっくりと見定める。
この女たちの長期戦を前に、セックスだけを求める男たちは、子を残せただろうか? 何人もの女たちから与えられるテストを次々に受けるだけで、合格できずに、つまり、セックスできずに終わったのではないだろうか。それに対し、最大の献身の証しである永続的な配偶関係、つまり結婚を約束した男たちはどうだろう。妻を独占し、長いテストをムダに何度も受けるより、ずっと多くの子を残せたのではないだろうか。
もちろん、これが男が結婚する唯一の理由ではない。しかし、女の突きつける獣身の証しという要求は、男に結婚を促す力として働いただろう。
男が結婚するもう1つの理由:「隠された排卵問題」の解決策?
男が結婚するのは、ヒトでは女がいつ排卵するのかが隠されていること、つまり、女がいつ妊娠可能なのかがはっきりと判別できないことにその発端がある、という説もある。
ほ乳類のメスには、ふつう発情期がある。メスは排卵の起こる時期、つまり妊娠可能な時期だけ発情して交尾する。排卵のないときには発情も起こらず、メスはオスを受けつけない。そして、発時期のメスの体や行動には、はっきりとそうとわかる兆候が現れる。だから、オスは、発情期の間だけメスを独占しておけば、生まれてくる子は自分の子だと確信することができる。発情期以外は、ほうっておいてもメスは妊娠しないからだ。
ところが、ヒトの女には、発情期というものがない。排卵していようがいまいが、いつでもセックス可能。おまけに、排卵しているときでも特別のサインはださない。だから、男には女がいつ妊娠可能なのかがわからない。
ここに、私たちの祖先の男にとっての大きな問題があった。生まれてくる子が自分の子であることを100%確信する道がないのだ。女がいつ妊娠可能かわからないので、生まれてくる子が自分の子だと確信するには、四六時中女を監視していなければならない。かといって、生きていくには、狩りにでかけて獲物をとったりしなければならない。べったりと24時間女を監視することなど不可能だ。
そこで、解決策の1つとして登場したのが結婚だ。できるだけ長く1人の女と過ごし、いっしょにいる間、何度も何度もセックスを繰り返す。そうすることで、生まれてくる子が自分の子である確率を上げたのだ。狩りで留守をしている間、他の男が妻と寝たとしても回数的には夫がまさり、ほとんどの場合、夫は生まれてくる子の父親の地位を確保できたことだろう。
なかなかおもしろい説だが、本当にヒトでは排卵が隠されているかどうかは、いまだに論議されている。実際、同じ女性の顔や匂いが、排卵期には男にとってより魅力的になる、という研究結果もあるくらいだ。
